African Elephant / photo by Brian Ralphs
動物に会いたくなれば、動物園に行くだけで簡単に多種多様な動物に会うことができる。
動物園なんだから会えるのは当たり前だが、なぜ多種多様な動物に会えるのか。
動物園はどのように動物たちを調達しているかご存知だろうか。
そして近い将来、動物園に行けば当たり前に会えていた動物たちがいなくなってしまう可能性があることをご存知だろうか。
動物たちの5つの調達方法と、動物園が消滅するかもしれない2つの問題について考えてみる。
参考サイト・TV
スポンサードリンク
動物園の5つの動物調達方法と消滅問題①
Giraffes Monarto Zoo Adelaide / photo by Les Haines
動物の調達方法と消滅問題は合わせて考える必要がある。
需要と供給の問題で、今の日本の動物園では調達(供給)が難しくなってきており、これが消滅するかもしれない問題の1つになる。
調達するそれぞれの方法と問題について考えてみる。
動物園が動物を調達する方法は、全部で5通りあると言われている。
- 購入する
- レンタルする
- 譲り受ける
- トレードする
- 繁殖させる
順番に見ていこう。
調達方法 1. 購入する
動物の調達は通常、ほかの動物園から購入する形を取ることが多い。
しかし最近では、その購入価格が高騰しており、昔のように購入することが難しくなってきているそうだ。
例えばキリンの場合、2002年では1頭あたり300万円だった購入価格が、2012年では1,000万円まで高騰している。
例え1,000万円で購入したとしても、輸送コストなど諸々を含めると、トータルで約2,000万円と言われ、購入金額の倍になってしまうとのこと。
この急激な価格高騰の背景には、新興国での動物園建設ラッシュが挙げられる。
動物たちの価格が高騰
要は動物園自体の数が増えることで、どこの動物園でも動物を欲しがっているので価格が上がっていくということだ。
新しくオープンする動物園にとっては、動物がいなければ話しにならないので、高くても買わざる負えなくなり、さらに価格が上がっていく悪循環を生んでいる。
売る側にとっても、ある程度高い価格でも売れてしまうので、値を下げることはないだろう。
そして、当たり前だが動物は簡単に数を増やすことができない。
その供給できる絶対数の少なさも価格高騰の1つの原因だと言われている。
代替出来ない価値(動物)の需要が高まり、供給できる絶対数が少なければ価格が高騰するのは当然だ。
ワシントン条約
さらに、1980年に締結されたワシントン条約によって、希少動物たちの取引が厳しく制限されるようになったことも拍車をかけている。
この条約は、密猟など乱獲から動物たちを守るための規制で、希少動物の枠にはゾウも入っており、売買自体が禁止されている。
そのため、現在動物園がゾウを調達するには、「調達方法 3. 譲り受ける」「調達方法 5. 繁殖させる」の2つの方法しか選択肢がなくなってしまったことになる。
調達方法 2. レンタルする
レンタルで有名な動物といえば、パンダですね。
日本にいるパンダのほとんどは、中国との年間契約でレンタルされている。
そのレンタル料は、保護やその他活動のためという名目で、1頭につき年間1億円と言われている。
それだけ高いレンタル料を日本国内で払える動物園は限られおり、東京の上野動物園、和歌山県のアドベンチャーワールドが有名だ。
例え人気がとれる動物たちでも、お金を持っている動物園以外はレンタルすることができないのが現状だ。
例外として、場合によっては無料でレンタルできることもある。
それは、繁殖の場合だ。
「調達方法 4. トレードする」と「調達方法 5. 繁殖させる」の両方にも関わってくる話しになるが、主に繁殖のために、動物園同士で動物たちを貸し借りすることもある。
調達方法 3. 譲り受ける
各都市には姉妹都市という国内・国外を問わず仲良くしている都市や国があり、繋がり象徴として、姉妹都市の動物園から動物を寄贈(プレゼント)されることもある。
この譲り受けるは、厳密には「調達方法 4. トレードする」と同じ内容になる場合もある。
なぜなら、寄贈(プレゼント)されてばかりではお互いにバランスが取れないので、代わりに別の動物をお返しとし寄贈するからだ。
例えば、愛知県にある東山動物園では、姉妹都市のシドニーからコアラを寄贈され、そのお返しとしてインドサイを寄贈したという前例もある。
例外として、密輸しようとした動物たちが関税で発見されることもある。
その場合、その動物たちがどこからやってきたのか詳細が不明で返すに返せない状況になった際には、動物園が引き取って飼育することがある。
これも、譲り受けるに入る。
調達方法 4. トレードする
トレードはその名の通り相互交換、つまり動物同士を交換すること。
例えば、富士市の動物園がシンガポールの動物園にタヌキを送ったところ、そのお返しとして世界三大珍獣との一つとされる、珍しいコビトカバが送られた。
お返しなので、「調達方法 3. 譲り受ける」に入るかもしれないが、元々交換の意思があればトレードとなる。
お互いの動物園で、繁殖のために無料で動物たちをレンタルし合う場合もある。
調達方法 5. 繁殖のさせる
この繁殖させる問題として、同じ動物園内で繁殖できれば一番良いのだが、頭数が少ない場合や、ずっと子供を作らない状態にある場合は、違う動物園から動物を借りる、または貸して繁殖させようとする。
ただし、貸し出す動物によっては、動物園にとって致命傷になりかねない。
その動物園にとって人気者の動物を貸し出してしまうと、看板スター不在ということになり、入場者が減ってしまう可能性があるからだ。
前例として福岡市動物園の場合、ほかの動物園から繁殖のためにオランウータンを借りたいと打診があったが、オランウータンはこの動物園の人気者で稼ぎ頭。
同じ動物園として助け合いは必要で、いろいろと協力する方法を模索したが、結局入場者が減少することが懸念され、オランウータンの貸し出しを断念せざるを得なかったそうだ。
経営を考えれば、気持ちは分からなくもない決断だ。
国内がダメならと、海外から借りる場合もあるようだが、日本の動物園は海外に比べて極端に狭いという理由から断られるケースが多いそうだ。
スポンサードリンク
消滅問題② 既存動物たちの減少
African Elephants / photo by Brian Ralphs
動物園が消滅するかもしれない2つ目の問題は、今いる既存動物たちの減少だ。
既存動物たちの減少、これは簡単な話で、すでに動物園にいる動物たちが寿命や病気などで死んでしまい、数が減少する問題だ。
さらに人でも問題になっている高齢化が、国内の動物たちにも当てはまり、かなり深刻な問題になっている。
例えば、動物園で人気者のゾウたち。
アフリカゾウは、最盛期には国内の動物園だけで68頭も保有されていたが、2010年には46頭まで減少している。
このまま減少が進むと、2030年には7頭まで減ってしまうと予想されている。
アジアゾウでは、2012年当時で国内に63頭が保有されているが、今のままでは30年後に動物園から姿を消してしまうかもしれないと言われている。
ゾウを例に挙げたが、動物全体が減少傾向にあるようだ。
実際、全盛期の動物たちの数が適当であったかどうかは分からないが、現在危機的状況にあるのは確かだ。
そんな日本が問題を抱えている中、アメリカでは動物園同士を繋ぐネットワークが機能している。
アメリカの動物園では
日本国内の動物園が危機的状況にある中、アメリカの動物園はどうだろうか。
アメリカにはAZA(Association of Zoos & Aquariums / アメリカ動物園水族館協会)という協会が存在している。
AZAでは、アメリカ国内の動物園同士が繁殖のために行う貸し借りがスムーズに行くようなネットワークを構築し、動物たちの年齢や遺伝データなどを基にして、動物学者が繁殖させる動物のペアやその時期を科学的に分析している。
現在アメリカ国内で224の動物園が加盟しており、AZAから繁殖の指示が来ると、その指示に従う義務がある。
義務という強制力を持っている代わりに、前述した福岡市動物園のオランウータンのようなケースにならないようバックアップがしっかりしている。
指示した動物がいなくなったことでその動物園が被害を受けないように、いなくなってしまった動物の代りに、別の動物をほかの動物園から融通してくれるのだ。
もう少し踏み込んで考えると、繁殖のためにいなくなってしまった動物によって、一時的に動物園に損害が出る可能性はあるものの、繁殖が成功して数が増えることで長い目で見ればプラスに転じるということ。
バックアップ体制もしっかりしていることで、アメリカの動物園ではこの繁殖ネットワークがうまく機能している。
ここまでうまくいっている前例があるなら、日本でもやればいいと思ったのだが、実はすでにあるようだ。
日本版 AZA
実は日本にも日本動物園水族館協という組織が存在している。
アメリカのAZAと同じように、データを基に科学的に動物の繁殖ペアや時期を分析して、動物園に指示をしている。
しかし、アメリカと違ってその指示に強制力は無い。
結果として指示を受けた動物園では、入場者が減ってしまうことを理由に拒否するケースも多く、うまく機能していないのが現状だ。
特に市営・都営などの動物園の場合、税金で運営されている部分もあるので、市民の意見を取り入れたり、手続きが複雑で全然前に進まない状態にあるようだ。
打開策
Giant Pandas, Chengdu, Sichuan april 2009 2203 / photo by gill_penney
勝手に打開策を考えてみた。
レンタル料の高いパンダをやめて、日本版 AZAの指示を、アメリカと同じように強制力を持たせる。
細かく言うと、パンダのレンタル料は、保護やその他活動のためという名目で、1頭につき年間1億円を中国に払っている。
購入金額が高くなった問題の例で挙げたキリンの話しがかすんでしまう金額だ。
1年1億なので、10年借りれば10億円。
ちなみに、このレンタル料はパンダがいる各動物園が支払うが、市営や都営などの場合はおのずと税金が使われていることになる。
この高いパンダのレンタルをやめて、浮いたお金で動物の調達・繁殖に力を入れつつ、日本版 AZAの繁殖システムがうまく機能すれば、動物園が消滅する可能性は低くなるだろう。
愛くるしいパンダには会えなくなるが、その分未来の動物園のためにお金を使っていく方がいいような気がする。
実際にはたくさんのしがらみがあるだろうが、これだけのことで少しずつ前進するのではないだろうか。